『ゾディアック』(デビット・フィンチャー監督)

DVDで鑑賞。

150分超にわたる大作。しかし、まったくダレずに見た。
見過ごしにされがちだが、デビット・フィンチャーのよさはユーモアにあると思う。人が何人も殺されているのに、担当刑事たちはさして切迫感もなく、殺される犠牲者たちもどこか大らかである。犯人もボテッとした体つきで相手にまったく恐怖心を抱かせない。連続殺人鬼モノにありがちな犯行の一貫性や類似性もなく、やり通そうという熱意や集中力に欠けている。この作品がノンフィクション的な題材で、事実をありのままに示したが故かもしれないが、むしろフィンチャー特有のユーモアと私は捉えた。この弛緩した印象をユーモアではなく、単なる間延びした感じとしか受け取れないような人にはキツいのかもしれない。

そして、デビット・フィンチャーのもう一つのよさは“けれんみ”である。時間の経過を示すのに、高層ビルが建ち上がるさまをワンカットの超ハイスピード映像で見せたり、巨大な吊り橋を車で渡る様子を橋の真上から捉えた大俯瞰ショットで示したり、“時間経過”や”空間移動”という、本来ならサッとやり過ごすべきはずの”つなぎ”のショットに最大限の労力を払う。これぞデビット・フィンチャーの”粋”の精神と言わずして何と言おう。

この二つのよさを“よさ”と捉えるか、あるいは”こけおどし”や”逃げ”と捉えるかによって評価が二分するのだと思う。

しかし、私は彼のユーモアとけれんみが案外好きなのである。