2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『本格小説 上・下』(水村美苗)

水村氏はこの物語を語るにあたって、幾重にも語りの層を塗り込め、重ねていく。それらが堆積し、ひとつのヒストリカル・ロマンとしての厚みを形成していく。 まず第一に、冒頭に置かれた著者自身の”語り”、そして第二に、祐介という青年がアメリカにいた著者…

『運命じゃない人』(内田けんじ監督)

『運命じゃない人』をDVDにて鑑賞。こういった複数の視点で、限られた時間や空間で起こる出来事を描き、その都度、隠されていた人物たちの意図や思いも寄らぬ展開が明るみに出てくる、という手法はおそらくタランティーノ以降、隆盛を極めるが、日本でやるひ…

『チェンジリング』(クリント・イーストウッド監督)

『チェンジリング』を有楽町の日劇TOHOシネマズにて鑑賞。 イーストウッドの近作では、『ミリオンダラーベイビー』の系譜に連なる作品と言って差し支えないだろう。世間の非難や理不尽にも屈せず、ひたむきに自分の意思を貫き通す強き女性像が描かれる。…

門松宏明さんというひと

門松宏明さんというひとのことが少々気になっている。 始めてその名前を知ったのは、『大谷能生のフランス革命』という書籍に共著者として名を連ねていたことによる。 この本は、渋谷のアップリンクファクトリーで2005年7月から翌年7月に掛けてほぼ一年間、…

電脳空間の首吊り死体

たとえば家族や友人・知人に知らせず、人知れず匿名で綴っているブログがあったとする。貼り付けられたリンクや文面から本人を特定するものは何一つない。昨日どこそこへ行っただの、誰と会ってお茶しただのといった情報は意図的に排除され、なるべく手掛か…

『警官の血』

テレビ朝日の二夜連続ドラマ、『警官の血』を見た。こういう連綿とした血の連なりを感じさせる、世代を超えたドラマはいいなあ…。見ていないが昔流行ったアメリカドラマの『ルーツ』もこんな感じなのだろうか?そしてとりわけ光るのが江口洋介である。 実は…

『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』(エリック・ロメール監督)

ロメールの最新作、『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』を銀座テアトルシネマにて。「私はこの映画のあと、現役を引退するつもりだ」とのロメールの寂しい言を目にした後での鑑賞であったが、まったく気負いの感じられない、人を喰ったような佳品であっ…

世の中には二種類の人間しかいない

世の中には二種類の人間しかいない。◯◯する奴と、△△しない奴だ。よく映画や小説で、はたまたミュージシャンなどが警句的にこういった決め台詞を吐き、おお、なるほどとその場では唸ってみたりするが何とも暴力的な物言いである。勝ち組、負け組という言葉も…

『石の来歴』(奥泉光)

奥泉光氏の『石の来歴』、『三つ目の鯰』を読了。非常に密度の濃い読書体験であった。ここ最近、奥泉氏の著作を固め読みすることにして『バナールな現象』、『モーダルな事象』と続き三冊目に表題作『石の来歴』と『三つ目の鯰』、二つの中編を所収するこの…