2009-01-01から1年間の記事一覧

『ゾディアック』(デビット・フィンチャー監督)

DVDで鑑賞。150分超にわたる大作。しかし、まったくダレずに見た。 見過ごしにされがちだが、デビット・フィンチャーのよさはユーモアにあると思う。人が何人も殺されているのに、担当刑事たちはさして切迫感もなく、殺される犠牲者たちもどこか大らかで…

『裏切り者』(ジェイムズ・グレイ監督)

ジェイムズ・グレイは、きわめて優れた脚本家であると同時に、それを映像として的確に具現化することを弁えた優秀な監督である。同時にこの二つであることは難しい。冒頭、1年4ヶ月の刑期を終えたレオ(マイケル・ウォルバーグ)が刑務所から出所してくる…

長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語(馮艶監督)

26日(木)ユーロスペース最終回にて鑑賞。長江・三峡ダム建設に伴い、移住させられた農婦・秉愛を七年間に渡って追ったドキュメンタリー映画。 中盤、村の溜まり場のようなところに集まった村人たちが、土地の分配の仕方について激しく議論を戦わせる場面…

『スワンプウォーター』(ジャン・ルノワール監督)

DVDにて鑑賞。 ジャン・ルノワール監督が戦火のパリを逃れ、ハリウッドに渡って撮った作品。ジャン・ルノワールという固有名で我々が記憶している“らしさ”はそのフィルムのどこにも刻印されていない。仮に監督名を伏せられ、見た後で言い当てろと言われて…

『青髭八人目の妻』(エルンスト・ルビッチ監督)

こちらもDVDで何度目かの鑑賞。 『生活の設計』と同様、ゲーリー・クーパーが出演。エドワード・E・ホートンという俳優も出ており、『生活の設計』ではヒロイン・ジルダを愛する、結局当て馬のようにされてしまう広告代理店社長の役を演じていたが、こち…

ジャンプカットについて

最近の映画でしばしばジャンプカットという手法をよく目にするになった。ジャンプカットとはウィキペディアによると、「画面の連続性を無視して、カットを繋ぎ合わせること」ごくと簡単な説明がなされている。 私個人の理解では、同一カットを途中で抓んで、…

『生活の設計』(エルンスト・ルビッチ監督)

ルビッチの『生活の設計』をDVDで再見。 ルビッチの映画を称して艶笑喜劇、ソフィスティケーティッド・コメディなる謂われ方がするが、そもそもこの言葉の意味って何だろうか。艶笑喜劇、艶っぽい笑い?ソフィスティケーティッド・コメディ、洗練された笑い?…

『リスボン物語』(ヴィム・ヴェンダース監督)

1995年製作だが、昨年の暮れにDVDで発売され、ツタヤの棚に並んでいたのを発見し、即レンタル。 まず数々のヴェンダース映画で、長髪を靡かせていたリュディガー・フォーグラー(『さすらい』、『ことの次第』、『都会のアリス』など)が見る影もなく…

『日本 vs 韓国』(WBC一次ラウンド決勝)

球数制限というシステムは面白い。 一次ラウンドでは「70球」、二次ラウンドでは「85級」、準決勝、決勝では「100球」と徐々に増えていくということだが、一投手がその試合で投げられる球数に制限が加えられるというわけだ。主力選手を借り出される球…

メディアの時代に生きる

ところで今、取り立てて私が言うまでもなく、“一億総表現者の時代”と言われて久しい。つまり、ブログやYou Tubeといった各種コミュニケーションツールの発達や映像・音楽機器の低廉化によって誰しもが小説やコラムを書いたり、映画・音楽を作って世に発信で…

『アフタースクール』(内田けんじ監督)

『アフタースクール』をDVDにて。 前作『運命じゃない人』で同じ一夜の出来事を異なる三者の視点から描き、その都度、驚きと笑いを誘発してくれた内田監督が、今度はどんなトリックで観客を欺いてくれるのかと期待して鑑賞。期待に違わぬ精緻な造りで、ア…

『アデルの恋の物語』(フランソワ・トリュフォー監督)

『アデルの恋の物語』をDVDにて鑑賞。 一昨年の東京フィルメックスで万田邦敏監督の『接吻』が上映された際、主演の小池栄子が手紙を書くシーンは『アデルの恋の物語』を下敷きにしていると万田監督がおっしゃっていたが、確かに劇中、アデルは終始その内…

『ベンジャミン・バトン』(デビット・フィンチャー監督)

デビット・フィンチャーの作品は実は今回が初見である。 デビット・リンチ、デビット・クローネンバーグ、デビット・フィンチャーと、ファーストネームにデビットを冠する監督は、なぜかくも一癖もふた癖もある人物ばかりなのだろう。(昔、ジャン・ジャック…

『本格小説 上・下』(水村美苗)

水村氏はこの物語を語るにあたって、幾重にも語りの層を塗り込め、重ねていく。それらが堆積し、ひとつのヒストリカル・ロマンとしての厚みを形成していく。 まず第一に、冒頭に置かれた著者自身の”語り”、そして第二に、祐介という青年がアメリカにいた著者…

『運命じゃない人』(内田けんじ監督)

『運命じゃない人』をDVDにて鑑賞。こういった複数の視点で、限られた時間や空間で起こる出来事を描き、その都度、隠されていた人物たちの意図や思いも寄らぬ展開が明るみに出てくる、という手法はおそらくタランティーノ以降、隆盛を極めるが、日本でやるひ…

『チェンジリング』(クリント・イーストウッド監督)

『チェンジリング』を有楽町の日劇TOHOシネマズにて鑑賞。 イーストウッドの近作では、『ミリオンダラーベイビー』の系譜に連なる作品と言って差し支えないだろう。世間の非難や理不尽にも屈せず、ひたむきに自分の意思を貫き通す強き女性像が描かれる。…

門松宏明さんというひと

門松宏明さんというひとのことが少々気になっている。 始めてその名前を知ったのは、『大谷能生のフランス革命』という書籍に共著者として名を連ねていたことによる。 この本は、渋谷のアップリンクファクトリーで2005年7月から翌年7月に掛けてほぼ一年間、…

電脳空間の首吊り死体

たとえば家族や友人・知人に知らせず、人知れず匿名で綴っているブログがあったとする。貼り付けられたリンクや文面から本人を特定するものは何一つない。昨日どこそこへ行っただの、誰と会ってお茶しただのといった情報は意図的に排除され、なるべく手掛か…

『警官の血』

テレビ朝日の二夜連続ドラマ、『警官の血』を見た。こういう連綿とした血の連なりを感じさせる、世代を超えたドラマはいいなあ…。見ていないが昔流行ったアメリカドラマの『ルーツ』もこんな感じなのだろうか?そしてとりわけ光るのが江口洋介である。 実は…

『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』(エリック・ロメール監督)

ロメールの最新作、『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』を銀座テアトルシネマにて。「私はこの映画のあと、現役を引退するつもりだ」とのロメールの寂しい言を目にした後での鑑賞であったが、まったく気負いの感じられない、人を喰ったような佳品であっ…

世の中には二種類の人間しかいない

世の中には二種類の人間しかいない。◯◯する奴と、△△しない奴だ。よく映画や小説で、はたまたミュージシャンなどが警句的にこういった決め台詞を吐き、おお、なるほどとその場では唸ってみたりするが何とも暴力的な物言いである。勝ち組、負け組という言葉も…

『石の来歴』(奥泉光)

奥泉光氏の『石の来歴』、『三つ目の鯰』を読了。非常に密度の濃い読書体験であった。ここ最近、奥泉氏の著作を固め読みすることにして『バナールな現象』、『モーダルな事象』と続き三冊目に表題作『石の来歴』と『三つ目の鯰』、二つの中編を所収するこの…